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認知症予防コラム

第3弾!認知症を題材にした物語5選

2022年05月03日

今回は「認知症」を題材にした小説をご紹介します。

  • 『長いお別れ』 中島京子 著 文藝春秋(2015)
  • 『長女たち』 篠田節子 著 新潮文庫(2017)
  • 『いつかあなたを忘れても』 桜木紫乃 著 集英社(2021)
  • 『わたしの知らない母』 ハリエット・スコット・チェスマン 著 白水社(2006)
  • 『旅の終わりに』 マイケル・ザドゥリアン 著  東京創元社 (2017)
Photo by Julia Kicova on Unsplash

『長いお別れ』中島京子 著 文藝春秋(2015)

かつて中学の校長を務めていた東昇平は、あるとき「アルツハイマー型認知症」と診断される。病は長い年月をかけて、少しずつ進行していく……『長いお別れ』は、主人公を支える妻や3人の娘たちの視点で描かれる連作短編小説で、父が認知症の診断を受けてから旅立つまでの10年が綴られています。介護の厳しさや大変さだけに焦点をあてるのではなく、時には温かく、時には切なく描かれる、父を中心とした家族のエピソードの数々が本作の魅力となっています。著者の中島京子さんが、アルツハイマー型認知症を患った父・中島昭和さん(フランス文学者・中央大学名誉教授)を見送った経験をもとに書いたもので、2019年には、蒼井優さん・竹内結子さん・松原智恵子さん・山﨑努さんといった豪華キャストで映画化されました。

『長女たち』篠田節子 著 新潮文庫(2017)

「最後に頼りになるのは、息子でも嫁でもなく、実の娘」そんな声を耳にすることがありますが、特に長女にかけられる期待は大きいとも言われます。3つの中編作品に登場する3人の『長女たち』もまた、夫も子どもも持たず、自立して自由に生きていたはずなのに、親の認知症を機にままならない現実と向き合うことになります。3人それぞれの苦悩がリアリティを持って胸に迫る……「我慢強い娘たちの叫びが圧倒的共感を呼ぶ傑作!」とのキャッチコピーがそれを物語っています。3作の中の一つ「ミッション」では、現代医療の在り方にも疑問を投げかけてきます。

『いつかあなたを忘れても』 桜木紫乃 著 集英社(2021)

本作は、『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞した作家・桜木紫乃さんによる絵本。「小説を読むのが苦手」という方でも、気軽に手に取れますので、ご紹介します。
絵は、イラストレーター・オザワミカさんが担当しています。母・娘・孫娘という3世代の姿が描かれており、強さや優しさが心に響く作品となっています。
桜木さんはかつて、認知症になった母への想いを込め『家族じまい』という小説を書きました。この絵本については「小説からは漏れた、孫の視点で書いてみました」と述べ、さらに「『おかあさん、わたしをわすれていいよ。わすれたほうが、さびしくないから。わすれたほうが、こわくないから』この言葉を、気持ちを、母に手渡したい。その気持ちが、絵本というかたちになりました」と語っています。

『わたしの知らない母』ハリエット・スコット・チェスマン 著 白水社(2006)

ユダヤ人向けの老人ホームに入所しているハンナは、認知症の悪化とともに、目の前の世界と記憶の世界が錯綜するようになり、奇異な発言で家族をうろたえさせるようになります。記憶がタイムスリップするハンナのモノローグと、その姿に戸惑う家族たちの視点が交互に描かれる中で、次第にハンナの過去が明らかに……認知症を軸に、世代による価値観の違いや戦争体験など重いテーマが浮かび上がりますが、読みやすい柔らかな文体に引き込まれ、爽やかな読後感さえ覚える作品です。

『旅の終わりに』マイケル・ザドゥリアン 著  東京創元社 (2017)

かつて家族で旅行したアメリカのルート66を、愛用のキャンピングカーで旅し、ディズニーランドを目指す老夫婦。運転する夫はアルツハイマー型認知症、頭はしっかりしていても鎮痛剤を手放せない妻は末期がん。子どもたちの心配をよそに、老夫婦は様々な出来事と遭遇しながらも、最後の旅を謳歌します。そして辿り着いたラストとは?……老いや人生、夫婦について、深く想いを馳せることができる作品。2018年に日本でも公開されたイタリア・フランス映画『ロング,ロングバケーション』の原作です。

まとめ

今回ご紹介した作品群に限らず、認知症をテーマにした物語には、著者の実体験が下敷きになっている作品が多いようです。だからこそ、強いリアリティや共感で、読者の胸に迫るのでしょう。折れそうな心に静かに寄り添ってくれるものから、前向きにしてくれたり励ましてくれたりする力強いものまで、様々な形があります。
ぜひ、チェックしてみてくださいね。