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認知症予防コラム

MCI(軽度認知障害)の早期診断、早期治療が大事!

2020年10月09日

北九州総合病院
脳神経外科 副部長 呉島 誠
日本脳神経外科専門医、日本脳血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本認知症学会専門医取得

あなたはMCI(軽度認知障害)をご存知ですか?
MCIの段階で早期発見、早期介入することができれば認知症を予防できる可能性が高くなります。

日本は現在超高齢化社会を迎えており、認知症に罹患する人がどんどん増えています。2012年には推定400万人以上の方が認知症であると報告がありました。
しかし認知症の方はどんどん増え続けていますが、残念なことにまだまだ根本的な治療は存在しません。だからこそ認知症の前段階での状態で早期発見することが大事になってきます。
この認知症になる前段階の状態をMCI(軽度認知障害)といいます。
MCIの段階で早期発見、早期介入ができれば、認知症を予防でき、症状を遅らせる可能性があります。そんなMCI、私の経験とともに解説します。

 MCI(Mild Cognitive Impairment)は軽度認知障害といい、認知症予備軍つまり前段階の状態のことをさします。正常でもなく、認知症でもなく、イメージとしてはいわゆるグレーゾーンの状態です。記憶、決定、理由づけ、実行などの認知機能のうち1つもしくは2つ以上の機能が低下している状態です。ただ日常生活には問題なく、全般的な認知機能もある程度保たれています。MCIの状態になってしまうと、年間およそ10人に1人は認知症に進行してしまいます。
しかしMCIの段階で認知機能低下に気がつくことができさえすれば、早期に予防、治療介入することができます。そして早く対応することで実は認知症への進行を遅らせることができます。さらには認知症自体を発症せずにすむ可能性まであるのです。だからこそMCIの早期発見が重要になってくるのです。

当院では物忘れ外来にて認知症診断はもちろんのことMCIの診断にも力を入れております。私自身は実は脳神経外科医として外来、手術と日々忙しい毎日を過ごしております。5年くらい前からでしょうか*、ちょっとしたきっかけで認知症診療に携わるようになりました。初めは手探りの状態でしたが、その過程で認知症診療の重要性を知りました。5年経った今では物忘れ外来にて地域の認知症診療を担いながら、講演、セミナーなどを通して認知症の地域への理解を深める努力を行っております。
*この記事は2016年の内容です。

そんな私が認知症診療、特にMCIの早期発見、早期治療を強く考えるようになったのは1人の患者さんとの出会いからでした。70後半の女性でもともとリハビリの先生をされていた方で軽い物忘れを主訴に私のところを受診されております。診察上は軽度の短期記憶障害だけで、認知機能検査などの結果を含めてMCIと診断しております。ただ詳しい検査から認知症への移行が強く疑われたため、早期に薬物治療を開始して治療を行っておりました。もう4年が経過しましたが、まだ記憶障害も軽く、一人暮らしをされております。ただちょっとずつですが周囲の人の生活介助は必要になっていますが、元気に私の外来に来てくれています。そして受診時にはいつも感謝の言葉をいただきます。外科医なので手術で感謝されることはよくありましたが、外来治療で非常に感謝されるのは初めての経験であり、非常に誇らしく嬉しい気分になったのを覚えています。

この患者さんを通してMCIの段階での早期発見、早期治療が非常に有効であり、それによって本人、家族の幸せにつながる可能性があることを知りました。
その経験をもとに他の患者さんにも貢献できればという思いで、当院では積極的にMCIの早期発見、治療につとめております。

現在当院ではMCIを早期発見するために通常の認知機能検査に加え、MRI、脳血流検査などを使用して診断行っております。また今年の4月からは採血でのMCIスクリーニング検査、認知症関連遺伝子APOE遺伝子検査も導入して、より早期に発見できるようシステムを整えております。

MCIは早期発見、治療が重要です。手遅れになる前に物忘れが気になったり、認知症が疑われる時には、最寄りの医療機関もしくはかかりつけの先生に早めに相談しましょう。

北九州総合病院 脳神経外科
呉島 誠