eスポーツで認知症予防?高齢者にも人気の理由とは
2024年11月27日
オリンピック競技としても認知されたeスポーツは、教育や介護・福祉をはじめ、さまざまな分野や年齢層に広がっています。本コラムでは、eスポーツの概要に加え、高齢者への取り組みに焦点を当て、eスポーツによって期待される効果や自治体での活用事例について紹介します。eスポーツに興味のある方や認知症予防の活動を始めたいと思っている方の参考になれば幸いです。
目次
eスポーツとは
eスポーツは「エレクトロニック・スポーツ」を略した呼び方です。一般的にはコンピューターゲームやビデオゲームを使った対戦競技を指します。広い意味では、電子機器を用いて行う娯楽や競技、スポーツ全般を意味します1)。
eスポーツの歴史
eスポーツという言葉が使われ始めたのは国際的なeスポーツイベント「World Cyber Games Challenge (WCGC)」が開催された2000年頃からです。2011年には、日本で初めて「eスポーツJAPAN CUP」が開催され、その後、2015年には一般社団法人 日本eスポーツ協会(JeSPA)が設立。さらに日本国内でのeスポーツの普及や産業の発展を目指して、2018年に一般社団法人 日本eスポーツ連合(JeSU)として再編されました1)。
国際オリンピック委員会(IOC)により、スポーツ競技として2025年に、「オリンピックeスポーツゲームズ(Olympic Esports Games, OEG)」が開催されることも決定しています2)。
近年のeスポーツの広がり
近年では小学生の習い事や中学生、高校生の部活動やスクールなどの教育分野、高齢者の介護予防・健康増進の一環として介護・福祉分野にもeスポーツが広く取り入れられています。また、地域活性や多世代交流を目的とした自治体による活用事例も増えるなど、今注目されているスポーツです。
さらに、新たな産業分野として経済産業省も市場成長を推進しており、今後、さらなる普及拡大が期待されています3)。
eスポーツで期待できる良い影響
自治体や民間での高齢者の生きがいづくりや社会参加を促す取り組みとして、eスポーツが活用される事例が増えています。それに伴い、eスポーツが高齢者に与える影響に関する研究も進められるようになってきました。
研究結果からeスポーツでどのような良い影響が期待できるかをご説明します。
eスポーツによる注意機能向上の可能性
健常高齢者を対象に「ぷよぷよ(対戦形式)」を2ヶ月間(全8回)行い、認知機能検査を実施した研究では、トレーニングを行わなかったグループ(6名)には有意な変化が見られなかったのに対し、トレーニング実施群(12名)ではストループ検査*1の正答数が増加しました。また、TMT検査*2では、解答時間の短縮が確認されました4)。
ただし、ゲームそのものが直接的に認知機能の向上に関与したというよりも、考えながら指先の操作を行う活動である点や地域活動へ参加するなどの複合的な要因が影響していると考えられています。そして、何よりも大切なのは参加者が「活動を楽しむ」ことだと報告されています4)。
*1ストループ検査:書かれているひらがなの文字の色を答える問題とひらがなの文字の読みを答える問題からなる選択的注意や集中力を評価する検査
*2TMT検査:数字を順番に結ぶ問題(TMT-A)と、数字とひらがなを交互に結ぶ問題(TMT-B)からなる幅広い注意、ワーキングメモリー、処理速度、空間的探索、衝動性、保続などの認知機能を総合的に評価する検査
eスポーツによる認知機能改善と幸福度が高まる可能性
高齢者29名を対象にした研究報告です。eスポーツ実施群16名(グランツーリスモ9名、ぷよぷよ7名)と対照群13名に分け、実施群は1日20分程度・週2回(約1ヶ月間)・計10回プレーしました。すると、注意機能や実行・遂行機能などの認知機能の改善および幸福感が高められる可能性が示唆されました5)。
実施群はTMT-Aの解答時間が短縮し、TMT-Bでは対象群に比べて解答時間の遅延が少なかったと報告されています。さらに幸福度を測るスケールにおいて、「老いに対する態度」の減少と「不安感・孤独感」が対象群に比べて低いという結果がみられました5)。
eスポーツが高齢者の認知機能に与える影響については、ほかにもさまざまなゲームや検査スケールを使用した検証が行われています。これらの研究で共通して読み取れるのは、eスポーツを通じて他者との交流や外出機会、社会参加が促されることで、前向きな気持ちや行動の変化がみられる可能性が高いという点です。他者との交流や地域のグループ活動への参加などを含むさまざまな社会とのつながりによって、認知症の発症リスクを軽減することが報告されています6)。eスポーツを介した社会とのつながりによる認知症予防の効果も期待されます。
自治体によるeスポーツの取り組み
各自治体で行われている高齢者向けeスポーツの活用事例をご紹介します。
- 地域の通い場でeスポーツの体験会
地域の通い場で仲間と一緒に活動を楽しみ、高齢者の社会参加を促す手段としてeスポーツを取り入れている自治体があります。
- eスポーツを体験できる施設の開設
数種類のゲームが設置してあり、eスポーツを時間制で体験できる施設を開設している自治体もあります。市民や在勤・在学者が無料で使用でき、幅広い年齢層が利用するので世代を超えた交流も生まれやすくなっています。
- eスポーツを通した交流の促進
子どもとの交流イベントや福祉センター同士をオンラインでつないでeスポーツ対戦を行い、世代間やほかの施設の利用者との交流を図る機会を設けている自治体もあります。
- スポーツ大会の開催
高齢者限定のeスポーツ大会を開催し、大会を見学に来る参加者との多世代交流や認知症未病改善の啓発、社会参加の促進に取り組んでいる自治体もみられます。
5.eスポーツにデジタル機器講習を組み合わせた取り組み
eスポーツだけでなく、スマートフォンやタブレットの使い方を教える講習を組み合わせて、高齢者のデジタル機器への理解を深める取り組みを行っている自治体もあります。
認知症予防にもつながるeスポーツの可能性
高齢者の健康増進や介護予防の一環として、自治体でもeスポーツの取り組みが広がっています。eスポーツを通じた社会参加が認知症予防にもつながる可能性も示唆されており、今後、eスポーツのさらなる普及とともに認知症予防や健康長寿への良い影響の報告が期待されます。
1)一般社団法人日本 e スポーツ連合 eスポーツとは
https://jesu.or.jp/contents/about_esports/
2)International Olympic Committee IOC enters a new era with the creation of Olympic Esports Games – first Games in 2025 in Saudi Arabia 2024.7.24
3)経済産業省 e スポーツを活性化させるための方策に関する検討会 日本のeスポーツの発展に向けて ~更なる市場成長、社会的意義の観点から~ 令和2年3月
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/030486.pdf
4)水國照充 高齢者を対象としたeスポーツによる認知トレーニングの効果検証と参加意欲に関する研究 国際ICT利用研究学会論文誌 5(1) 3-16
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiiars/5/1/5_1/_pdf/-char/ja
5)福岡eスポーツリサーチコンソーシアム(FeRC)eスポーツの実施が高齢者の認知機能及び幸福感に及ぼす影響(斉藤嘉子)
6)Saito,T., Murata,C., Saito,M., Takeda,T., & Kondo,K. (2018). Influence of social relationship domains and their combinations on incident dementia: a prospective cohort study. J Epidemiol Community Health, 72(1), 7-12