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認知症予防コラム

痩せる脂肪細胞の活性化で肥満を予防

2024年06月26日

肥満は認知症のリスク要因とされ、特に中年期の肥満はそのリスクを高めることが知られています。脂肪細胞には、太る脂肪細胞と痩せる脂肪細胞がありますが、痩せる脂肪細胞は加齢とともにだんだんと減少していきます。最近の研究では、肥満を改善する新たな糸口として、褐色脂肪細胞を活性化させる方法が注目されています。この記事では、痩せる脂肪細胞の働きを良くする方法について、研究報告を用いてわかりやすく説明しています。

痩せる脂肪細胞と太る脂肪細胞

人間の体内に存在する脂肪細胞は、主に白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類です。

白色脂肪細胞は内臓脂肪や皮下脂肪に多く、エネルギーを蓄える役割を持ちます。この働きが過剰になると、中性脂肪が増えて肥満の原因になります。一方で、褐色脂肪細胞は首や肩、鎖骨といった場所にあり、エネルギーを燃やして熱をつくり出し、脂肪を減らす役割を持っています。脂肪を燃やす褐色脂肪細胞の数や働きは加齢によって低下し、肥満や糖尿病と関連すると考えられています。

肥満は2型糖尿病などの生活習慣病を引き起こす要因となり、特に中年期の肥満は認知症を発症するリスクを高めることが知られています。肥満の予防や解消は健康を守るためには大切です。

2種類の脂肪細胞である白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞は、もともとは同じ細胞で、脂肪細胞になる前の前駆脂肪細胞が分化したものです。前駆脂肪細胞は前駆脂肪細胞のままで分化しない細胞と、白色脂肪細胞や褐色脂肪細胞へと分化する細胞があります。分化過程では、遺伝的な要因だけでなく、環境や生活習慣などの外的要因が関与していること報告されています。

前駆脂肪細胞から、白色脂肪細胞および褐色脂肪細胞への分化には、遺伝子の活性をコントロールするエピゲノムのヒストンメチル化修飾が関与しています。遺伝子を活性化させるH3K4me3と活性化を抑制するH3K9me3が、前駆脂肪細胞から脂肪細胞へと分化する際のスイッチのような役割を果たしていることが明らかになりました1)

 痩せる脂肪細胞を活性化させるスイッチ

褐色脂肪細胞は、寒さや運動などの特定のスイッチによって活性化され、脂肪を燃やして熱を産生することが知られています。

最近の研究において、褐色脂肪細胞の熱産生が活性化するメカニズムおいて、β2-アドレナリン受容体が重要な役割を果たしていることが発見されました2)

さらに、褐色脂肪細胞を活性化する方法はほかにもいくつか報告されています。例えば、褐色脂肪細胞がほぼ存在しない人でも、6週間にわたって毎日約2時間、17度の寒冷環境に晒されると、褐色脂肪細胞が活性化してエネルギー消費量が増加することが確認されています。また、トウガラシに含まれる辛味成分のカプシノイドを6週間摂取することでも、同様の結果が得られたことが報告されています3)

さらに、高齢者における有酸素運動が白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に変換する作用を持つことが報告されています。具体的には、高齢者が8週間にわたって、持久力向上を促す強度の自転車運動を45分間、週3回続けたところ、運動によって筋肉から放出されるアイリシンが増加し、腹部の内臓脂肪が減ったとあります4)

痩せを助けるベージュ脂肪細胞

脂肪を燃やし、肥満を改善する褐色脂肪細胞のほかに、脂肪を燃やして痩せを助けるベージュ脂肪細胞の存在が注目されています。

慢性的な寒冷環境に晒されることで、白色脂肪組織の中にベージュ脂肪細胞が生じると報告されています。ベージュ脂肪細胞は脂肪を燃やす働きを持ち、褐色脂肪細胞と共に肥満改善をサポートします。まさに痩せを助ける脂肪細胞です5)

まとめ

痩せる脂肪細胞である褐色脂肪細胞は加齢に伴って減少していくため、特に中年期以降の肥満に注意が必要です。研究報告により、褐色脂肪細胞が減った状態でも有酸素運動の継続によって褐色脂肪細胞が活性化したという報告があります。ほかにも、寒冷刺激やカプサイシンの摂取など、脂肪を燃やす脂肪細胞である褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞を活性化する方法がわかってきています。これらの方法は健康状態に十分注意したうえで行う必要がありますが、肥満の改善や、認知症リスクの低減につながるかもしれません。今後、さらに研究が進み、肥満や肥満に関連して起こる生活習慣病、そして認知症の予防・治療へと活かされることが期待されます。

参考文献

1)Yoshihiro Matsumura et al. H3K4/H3K9me3 Bivalent Chromatin Domains Targeted by Lineage-specific DNA Methylation Pauses Adipocyte Differentiation Molecular Cell 60(4), 584-596: 2015

2)Denis P. Blondin et al. Human Brown Adipocyte Thermogenesis Is Driven by β2-AR Stimulation Cell Metab. 32(2)287-300. 2020

3)Takeshi Yoneshiro et al. Recruited brown adipose tissue as an antiobesity agent in humans J Clin Invest. 123(8): 3404–3408. 2013

4)家光素行ら,運動により骨格筋から分泌される Irisin が内臓脂肪減少に関与するのか?「デサントスポーツ科学」第35巻

5)プレスリリース 東北大学 体細胞の燃焼を制御する酵素の発見 -栄養のとりすぎによる肥満と耐糖能悪化の改善につながる成果