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認知症予防コラム

健康維持のために必要な1日の歩数とは

2023年10月26日

健康維持・増進には歩くことがよいとされています。健康維持に必要な1日の歩数について、いくつかの研究報告をピックアップして紹介し、1日の歩数を増やすために有効な取り組みについて説明します。

健康維持と増進には適度な運動が重要ですが、その中でも日常的に取り入れやすいウォーキングは効果的な方法として知られています。いったい、1日に何歩歩けば健康によいのかを、研究結果をもとに紹介し、歩数を増やすために有用な取り組みについてもお伝えしていきます。

健康維持・増進に必要な1日の歩数

健康維持・増進と、1日に必要な歩数についての研究は多く行われています。いくつかの研究報告を紹介します。

・厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」
18~64歳の方々に対して、健康づくりのために必要な身体活動量に基づいて、1日8,000~10,000歩(3メッツ以上の身体活動としての週に合計23メッツ・時/週に相当する6,000歩+日常的な身体活動量2,000~4,000歩)が目標値として設定されています1)。なお、65歳以上の方々については、10メッツ・時/週に相当する身体活動量が基準となっています。可能であれば、64歳以下の方々と同等の身体活動も推奨されていますが、無理のない範囲で行うことが重要です。

・米国のヴァンダービルト大学の研究
ウェアラブルデバイスにより把握した米国人の中高年6,000人以上の身体活動量や受診、検査結果などを最長7年間にわたって追跡した米国のヴァンダービルト大学の研究により、肥満、睡眠時無呼吸症候群、胃食道逆流症、大うつ病の発症リスクが1日当たりの歩数に依存しし、1日8200歩以上歩く人では有意に低下(ハザード比<1.0)することが示されました。なお、高血圧と糖尿病についても歩数増加による発症リスク低下傾向がみられるものの、1日8,000〜9,000歩以上歩いても変化がないという結果でした2)。

この研究結果に対して、より身体活動量が高まると、食事摂取量が増加する可能性があるが、より活動的であることのメリットは少なくないとも考えられるため、1日8,000~9,000歩までで良いとの解釈することは正しくないのではという意見、本研究の結果のみで健康維持には9,000歩が最適と判断すべきではないなどの意見がみられています。

・南デンマーク大学の研究
40歳から79歳の7万8,500人を対象とした南デンマーク大学の研究では、1日最大1万歩までは2,000歩増えるごとにがんや心血管疾患での死亡リスクや全死亡リスクの低下と関連があると報告されました3)。
ただし、多く歩くと死亡リスクが低下すると言い切れるわけではなく、あくまで関連があるとするにとどめられています。また、1分間に約80歩の速さで早歩きをした人でより全死亡リスクが低いという、歩行スピードと死亡リスク低下の関連も述べられています。
さらに、この研究に関わったCruz氏の別の論文では、1日の歩数を増やすことが認知症の発症リスクの低下と関連していることが示されています。リスク低下が最大に認められた歩数は9,826歩であり、リスク低下が認められた最小の歩数は3,826歩でした。つまり、1日当たり1万歩を少し下回る程度の歩数が、最も認知症のリスク低下に効果的であることが示唆されました4)。また、1度にまとめて歩く必要はなく、1日の中で分けて歩数を合計してもよいと述べられています。

歩数計を身につけると歩数が増加

米ブリガムヤング大学教授のWilliam Tayler氏らによる大学生を対象にした研究では、歩数が確認できない状態でも、歩数計を身につけていると、歩数計をつけていない人に比べて1日の歩数が増えることが明らかにされました。

この研究は、iPhoneユーザー90人にアプリケーションをその理由を説明せずにダウンロードしてもらい、実験開始前のiPhone内に記録された歩数情報を参加者には内緒で追跡するところから開始しています。この研究により、歩数計を身に着けているだけで、歩数を確認できない状態でも1日の歩数が増えることが示されました。

参加者を表示のない歩数計を常に身につけるようにした「歩数意識群」と、歩数計と同期できるアプリケーションで1日の歩数を確認して毎晩記録する「歩数意識+記録群」、何もしない「対照群」の3つのグループに分けて、2週間後に歩数を取得した結果、対照群と比較して歩数意識群、歩数意識+記録群で有意な結果がみられました。

この結果から、Tayler氏は歩く気がなくても、歩数を計測されていると思うだけで歩数が増加する傾向は健康維持を図るために有用であると述べています5)。 

段階的に歩数を増やし、健康を維持しましょう

複数の研究によって歩くことで生活習慣病の発症や認知機能の低下のリスクが低減できると示されています。それぞれの研究報告で細かな数値は異なるものの、8,000~10、000歩の歩数が心身の健康や認知機能の維持に関連しているとの結果がみられており、歩き方として、速歩きがより健康を維持しやすいことが示されています。

スポーツ庁から報告されている令和元年の日本人の1日の歩数は、20~64歳で男性7,864歩 、女性6,685歩、65歳以上で男性5,396歩、女性4,656歩です6)。厚生労働省により、1,000歩は約10分の歩行とされており7)、64歳以下の平均歩数からみると、あと10分~20分程度歩くことで1日8,000歩をクリアできそうな値です。

しかし、あくまでも平均値であり、1日1,000歩以下の歩数の方々にとっては、1日80分のウォーキングをいきなり達成するのは非常に高いハードルでしょう。1日のうちで歩行を分散させて歩数を合算してもよいという見解もあることから、1日10分を朝、夕の2回からはじめ、徐々に15分、20分と歩く時間を延ばしていく、もしくは1日の歩く回数を増やすなど、段階的な取り組みが望ましいと考えらえます。なお、医師の治療を受けておられる方は、ウォーキングを始める前に医師にご相談されることをおすすめいたします。

歩数計を常に身につけて、歩数を計測されているという意識を持つことも歩くモチベーション維持に役立つかもしれません。

2)Hiral Master et al. Association of step counts over time with the risk of chronic disease in the All of Us Research Program Nat Med. 2022 Nov;28(11):2301-2308.
3)Borja del Pozo Cruz et al. Prospective Associations of Daily Step Counts and Intensity With Cancer and Cardiovascular Disease Incidence and Mortality and All-Cause Mortality. JAMA Intern Med. 2022;182(11):1139-1148
4)Borja del Pozo Cruz et al. Association of Daily Step Count and Intensity With Incident Dementia in 78 430 Adults Living in the UK. JAMA Neurol. 2022;79(10):1059-1063
5)Tayler, William B et al. The Effect of Wearable Activity Monitor Presence on Step Counts. American Journal of Health Behavior, 46(4)347-357(11)
6)スポーツ庁 運動・スポーツ実施に係る各種目標・調査について(令和3年6月)
https://onl.sc/GgyxUes
7)厚生労働省 身体活動・運動
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b2.html