アロマで認知症予防!〜物忘れより先に嗅覚機能が低下〜
2023年08月22日
世界の国々には古くから、病気の治療や不調の手当てに植物を利用した伝統療法がありました。日本にもゆず湯や菖蒲(しょうぶ)湯など、良い香りの植物を活用した習慣がありますよね。
植物の芳香成分を抽出した精油を使い、健康や美容に役立てる植物療法をアロマセラピー(アロマテラピー)といいます。
鳥取大学の浦上克哉先生は長年認知症の研究に取り組み、アロマセラピーが認知症の予防とケアに役立つと確信されました。
今回は浦上克哉先生の著書より、アロマセラピーを活用して認知症を予防する方法について解説していきます。
アロマセラピーとは
アロマセラピーとは、植物から採取されるアロマオイルを使った芳香療法です。香りが嗅覚を通して脳に働きかける作用や、皮膚から肌に吸収される作用が心身のトラブルを穏やかに回復させます。アロマセラピーは植物の香りや成分を健康や美容に役立てていく自然療法です。
アロマオイルの香りや成分が体に伝わるルートは3つあります。
芳香成分はどうやって体に伝わるの?
① 皮膚からの吸収
アロマオイルを使ったマッサージや入浴によって皮膚から芳香成分を吸収させる方法です。皮膚から吸収された芳香成分は、血液に乗って全身をめぐり、各組織や臓器に運ばれていきます。
② 肺からの吸収
芳香成分のスチーム吸入など、蒸気を吸入することで吸い込まれた芳香成分は、気管支を通って肺から吸収されます。その後、血液に入り全身をめぐります。
③ 鼻からの吸収
アロマオイルの香りをかぐ行為によって成分が鼻に入り、電気信号となって脳の大脳辺縁系に伝えられ、さらに視床下部へ伝えられます。大脳辺縁系は人間の感情や欲求を支配している部分で、視床下部は自律神経を支配している部分です。芳香成分が自律神経や感情に深く関わる部分を刺激します。
匂いを感じにくくなっていませんか?
認知症ではなく、その前段階の状態を軽度認知障害(MCI)といいます。
認知機能は少しずつ時間をかけて緩やかに低下していきます。MCIでは、以前は問題なくできていたことがだんだんスムーズにできなくなったり、約束を忘れたりすることが増えてきます。
認知症と言えば、物忘れを真っ先に想い浮かべると思いますが、物忘れよりも先に匂いがわからなくなることをご存じでしょうか?
アルツハイマー型認知症ではその原因物質が新しい記憶や見当識に関与する脳の部位(内嗅皮質や海馬)に蓄積しますが、これらの領域はにおいを感じることにも関連しているため、アルツハイマー型認知症患者は、物忘れの症状がみられる前から、においがわからなくなると言われています。
嗅覚の低下は認知症でなくても起こりますが、視覚や聴覚に比べると機能低下のスピードが遅く変化を感じにくいのです。
臭いの情報は、複雑なルートで脳に運ばれていますので、嗅覚を働かせることは脳の活性化を促すことにつながります。つまり、アロマオイルの匂いをかぐことで嗅覚に刺激を与えて脳を活性化することができると考えられています。
認知症予防に大切な生活リズム
毎日を健康的に過ごすためには、昼は活動的に過ごし、夜はぐっすり休むという生活リズムが大切です。
歳を重ねると「なかなか眠れない」「朝起きるのがつらい」といった不調を抱える方が増える傾向にあります。このような不調を緩和するのに適しているのがアロマセラピーです。
浦上克哉先生の研究チームでは、昼用の香りは交感神経を刺激して脳を活性化し、認知機能を改善するアロマオイル、夜用の香りは副交感神経を刺激して、リラックスしてぐっすりよく眠れる香りのアロマオイルを勧めています。
それでは、認知症の予防と治療で最も効果のあった植物の組み合わせを紹介します。
効果的なアロマオイルは?
①昼用の香り
●ローズマリー・カンファー
効用:集中力の向上、記憶力の向上
●レモン
効用:集中力の向上
※ローズマリー・カンファーとレモンを2滴対1滴の割合で配合
(1滴は約0.02 mLです)
②夜用の香り
●真正ラベンダー
効用:不眠改善、鎮静作用、不安の減少
●スイートオレンジ
効用:集中力の向上、不安の減少、意欲の向上
※真正ラベンダーとスイートオレンジを2滴対1滴の割合で配合
(1滴は約0.02 mLです)
アロマオイルの選び方
アロマオイルは信頼のできる業者が取り扱っている無農薬、有機栽培のアロマオイルを選ぶようにしましょう。 市販されているものの中には、化学合成で香りだけを似せて作ったものも存在しますので注意してください。長期間、香りを嗅ぐことを考えると、化学合成された本来人間の体にはないものは身体に良くない可能性もあります。
アロマオイルの配合方法
配合の比率ですが、これは2対1の比率を単純に2滴と1滴で配合しないでください。個人でブレンドを行う際は、スポイトやブレンドをするための容器、攪拌(かくはん)用の道具などをそろえて正確に計量してください。
芳香器について
芳香拡散器(ディフューザー)により部屋全体に香らせる方法や、日中外出する場合はアロマペンダントを用いて香りを携帯することもお勧めします。
なお、アロマセラピーにはオイルの特性や使う人のコンディションによっては過敏な反応がある場合があり、使ってはいけないものが存在します。また治療中の病気があり薬剤を服用されている方など、不安がある場合は主治医にご相談ください。初めて使用する場合は使用量の半分以下から試し、事前のバッチテストもおすすめです。
おわりに
歳をとれば認知機能は少なからず衰えますが、嗅覚を刺激することで脳を活性化できることが分かりましたね。また、アロマオイルの香りを昼夜で変えることにより、昼は活動し、夜はぐっすり休むという生活習慣を続けやすくなります。
認知機能の衰えを予防、改善することが期待できるアロマセラピーを日々の生活に取り入れて、健康寿命を伸ばしてみませんか。
参考文献
①浦上克哉著、アロマで予防!認知症、主婦の友社(2014)
②https://square.umin.ac.jp/dementia/19-1-77-85.pdf
③佐々木薫著、基本のアロマテラピー、主婦の友社(2021)
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/ninti-aroma.html
https://www.aromakankyo.or.jp/basics/literature/new/vol11.php