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認知症予防コラム

脳を傷つける複数の要因と認知症予防法の一例をご紹介

2023年01月06日

脳を傷つける複数の要因が認知症をもたらすと言われています。認知症をもたらす要因をタイプ別に説明し、日常的に取り組める対処法を紹介します。

脳を傷つける複数の要因


脳にダメージを与え、認知機能を低下させる要因と考えられているものは多数報告されています。食生活や生活習慣に関連するものが多く、以下の「炎症」「栄養等」「有害物質」「過剰な糖質摂取」の4つのタイプに分けられます。

タイプ脳を傷つける要因
炎症 ・ストレス ・慢性の炎症 ・腸内環境の悪化 ・アレルギー体質 ・内臓脂肪(肥満) ・歯周病の原因菌(シンジバリス菌)
栄養等・肉・魚・豆などのタンパク質の摂取不足 ・野菜・海藻類・キノコなどのビタミン・ミネラルの摂取不足 ・アルコール分解時に生じるアセトアルデヒト(過度の飲酒) ・運動不足 ・睡眠不足 ・日光を浴び時間の不足(ビタミンD不足)
有害物質(脳の働きを低下させる有害物質との接触が多い人) ・エアコン、浴室などのカビが産生する有害物質(カビ毒) ・マグロ等に含まれる有機水銀(通常の生活では問題ないとされているが、水銀を使用した銀歯については歯科医師と相談した方が良いと言われている。) ・タバコに含まれる化学物質(喫煙)
過剰な糖質摂取 (甘いものや炭水化物をよく食べる人)・菓子パン・ジュースなどの甘い物、白米・パン・麺類などの炭水化物、果物を過度の摂取 ・高血糖

脳を傷つける要因はアルツハイマー病のリスクを高める


アルツハイマー病は、脳にアミロイドβが蓄積し、脳の神経細胞が破壊されて認知機能の低下をきたす病気です。健康な人でもアミロイドβはつくられますが、分解されるので過剰に溜まることはないと考えられています。

しかし、脳を傷つける要因に日常的にさらされていると、アミロイドβが脳を守ろうとして過剰に発生し、アルツハイマー病のリスクが高まることをデール・ブレデセンが示しました。1)

□認知症のリスクとなる「過剰な糖質摂取」
4つのタイプの中でもとくに「過剰な糖質摂取」は、私たちの食生活に密接に関わる要因として危険視されています。

甘い物に限らず、主食として口にする機会の多い白米やパン、麺類などの炭水化物を過剰に食べると、血液中の糖が増加して高血糖になります。高血糖が続くと、タンパク質と糖が結び付き、毒性の高いAGEという物質がつくられます。AGEは炎症を引き起こして血管を傷つけ、脳への栄養供給を減らすだけでなく、血液脳関門の機能障害をもたらすことも知られ、これらの結果が認知機能の低下をもたらすと考えられます。

さらに、血糖を下げるインスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性を生じると、脳に溜まったアミロイドβを減らせなくなり、アルツハイマー病のリスクを高めると言われています。

リコード法


デール・ブレデセンは認知症の治療法として、脳を傷つける複数の要因を日常生活からできるだけ多く取り除く「リコード法」を提唱しました1)。

リコード法は、この方法に熟知した医師の指導により患者に当てはまるタイプの認知機能低下リスク要因を取り除き、食事、運動、睡眠の改善、ストレスの軽減、脳トレ、サプリメント摂取などでその人に合わせて総合的にアプローチしていく手法です(保険診療ではありません)。ただし、効果があったという報告はありますが、治験等による有効性の確認はなされていないようです。

リコード法の食事「ケトフレックス12/3」


リコード法で治療した患者に有効な食事として「ケトフレックス12/3」が示されています。血糖値を急激に上げないようにし、糖の代わりにケトン体を利用する食事法です。ケトン体はエネルギーとなる際に老廃物が出ず、抗酸化作用があるため、認知機能低下の予防につながると言われています。

具体的には、血糖値を上げる糖や炭水化物の量を減らして、ケトン体の合成を促す中鎖脂肪酸をとります。また、ケトン体をエネルギーとして使いやすい体の状態にするために、前日の夕食から朝食までは12時間以上空け、寝る3時間前は食べないようにします。ただし、糖質制限が不要である場合(肥満でない人など)が過度に糖質制限を行うと体調を崩す可能性があります。また高齢者の栄養不足はフレイルの原因にもなりうると考えられますので、医師と相談の上実施することが望ましいと考えます。

日本人におすすめのケトフレックス


炭水化物を抜いた野菜中心の食事が推奨されていますが、米を主食とする日本人が取り入れやすいケトフレックスも紹介されています2)、3)。

 食事内容注意点
朝食・前日の夕食から12時間以上空ける ・中鎖脂肪酸が豊富なココナッツオイルを大さじ1杯加えたコーヒー(200ml)を飲む  ・ブレンダーで攪拌すると飲みやすく、下痢しにくい ・MCTオイルでも可 ・ココナッツミルクの場合は中鎖脂肪酸の量が少ないため、大さじ2杯入れる
昼食・卵料理と生野菜のサラダ ・卵で質の良いタンパク質・ミネラル・ビタミンをとり、体内の代謝を促す酵素を含む生野菜をたっぷりとる・平飼い・国産飼料の卵を選ぶ ・市販のドレッシングはオメガ6系脂肪酸や砂糖を含むため、オメガ3系脂肪酸を含む亜麻仁油やえごま油、エクストラバージンオリーブオイルに塩や酢、レモン汁を加えた手作りドレッシングを使う
夕食・寝る3時間前までに食べ終わる ・玄米や雑穀のごはん100g ・タンパク質を含む肉・魚を「蒸す」「煮る」方法で調理した主菜 ・酒かす・麹・ぬか・酢などを使った発酵食品を取り入れた副菜 ・野菜のたっぷり入った汁物・タンパク質は体重1kgあたり1gとる ・肉・魚はオメガ3系脂肪酸を含むさば・いわし・鮭・牧草牛などを選ぶ ・腸の炎症を予防する納豆・みそ・しょうゆ・みりん・麹・酢・キムチ・ぬか漬けなどの発酵食品、骨から取っただしを取り入れる ・小麦製品・加工食品・乳製品は避け、緑黄色野菜をしっかりとる

緩やかな糖質制限食と生活習慣の見直しで認知症を予防


認知症は脳を傷つける食生活や生活習慣からもたらされます。脳を傷つける要因を日常生活から取り除くとともに、緩やかな糖質制限を中心とした食事、運動、睡眠、脳トレ、ストレスの軽減など、医師と相談の上多面的に生活習慣を見直すことで認知機能の低下の予防が可能かもしれません。

参考文献

1) デール・ブレデセン.アルツハイマー病 真実と終焉. ソシム.2018
2)白澤卓二.認知症予防プログラム「リコード法」.保健の科学62(7);469-472(2020)
3)白澤卓二.Dr.白澤のアルツハイマー革命ボケた脳がよみがえる. 主婦の友社.2018