それって脱水症?~本人が気づきにくい脱水~
2022年08月26日
脱水で体調が不良になっても、それを脱水と判断するのはなかなか難しいものです。なぜなら、脱水症の症状は、認知症や他の病気の症状とよく似ているからです。また、服薬中の人は脱水の症状が起こっても薬の影響や副作用と間違ってしまう場合があります。
ここでは、認知症の高齢者と服薬中の高齢者が脱水と気づかずに症状を悪化させた実例を紹介します。 脱水症とはどのような病気か、脱水と間違いやすい症状や脱水症のサイン、日ごろから実践できる脱水の予防法を解説していきます。
目次
高齢者は脱水に気づきにくい
- 認知症のAさんの場合
Aさんは80代の女性で認知症があります。そのため一人での外出が難しい状態でした。その日は午前中から夫と二人でバスを乗り継ぎ遠くまで外出しました。日差しが高くなった頃、Aさんは徒歩での移動中に体調が悪くなり動くことができなくなったのです
夫は救急車をよび、Aさんは搬送された病院でそのまま緊急入院となりました。動けなくなった原因は脱水症でした。 夫は「自分は体力があり何ともなかったが、妻は疲れたのだろう。もっとゆっくり歩いて途中休憩し、水分をとればよかった。」と後悔された様子でした。
- 服薬中のBさんの場合
Bさんは80代の男性で妻と同居しています。Bさんには持病があり手が震えたり歩くのに時間がかかったりするパーキンソン病に似た症状がありました。 自宅に訪問したときBさんは机にうつぶせのまま受け答えをされ、「頭がふらふらして歩けなくなった」と苦しそうでした。「最近薬が変わったので、そのせいかもしれない」と妻は話されました。
その日のうちに病院を受診し、Bさんは即入院となったのです。診断名は脱水症でした。
後日、二人とも元気になって退院されましたが、そばに誰もいなければ大変なことになっていたかもしれません。 このように、気づかないうちに忍びよる脱水症とは、いったいどのような病気なのでしょうか。
脱水症とは
私たちの体の大部分は、水と塩分(電解質)が混ざった体液からできています。この体液が減少した状態が脱水症です。言いかえれば、脱水症とは水分と塩分(電解質)が失われた状態ともいえます。
体液の量は成人で体の約60%、65歳以上の高齢者は約50%です。体液は全身にあり血液やリンパ液などに含まれていますが、実は体液の多くが筋肉中に含まれています。そのため、若くて筋肉の多い人は体液の割合も大きくなります。
脱水症は急速に体液が減少したときに起きる急性型タイプと、食欲低下や病気療養で徐々に体液が減少したときに起きる慢性型タイプの2つがあります。高齢者の場合は慢性型タイプが多くなっています。脱水状態になると血の流れが悪くなりやすく脳梗塞が起こりやすいといわれています。
高齢者が脱水症になりやすいのはなぜ?
高齢者は認知機能の低下があったり持病を持っていたりするため、体調の変化があったときに脱水が原因だと気づきにくい傾向があります。そのため脱水を進行させやすいのです。
高齢者は脱水症になったときのダメージが大きく、腎臓機能や体温調節機能、認知機能なども急激に影響を受けます。
高齢者が脱水症になりやすい5つの理由
①体内の保水量の低下
高齢者は若い人に比べて体液の保水タンクとなる筋肉量が少なく、体内に水分をためておく力が弱くなっています。
②食事量、水分摂取量の減少
加齢による身体機能や活動量の低下により、食事の全体量が減ることで食事からとり入れられる水分量が減少します。また、胃や腸の機能が低下し、一度にたくさんの水分をとることができなくなります。
③認知機能の低下
認知機能の低下によって、天候や気温に合わせた適切な対応ができなくなります。暑い部屋でそのまま過ごしたり、必要な水分をとらなくなったりすることで脱水がおこります。
④のどが渇いていることに気づきにくい
高齢者は暑さや水分の不足に対する感覚の機能が低下しており、暑さに対し体を調整する機能も低下しています。のどの渇きを感じないため水分をとらずに脱水になってしまいます。
⑤意識的に水分補給を控える傾向がある
高齢者は、夜間や外出時の排尿回数を減らすため、水分摂取を控える傾向にあります。
認知症で起きるせん妄が脱水でも生じる
せん妄は時間や場所が急にわからなくなる見当識障害から始まり、睡眠障害、幻覚・妄想、情動や気分の障害、神経症状などが現れます。
脱水症の症状でせん妄を生じることがありますが、認知症でもせん妄とよく似た症状がみられることがあります。脱水に陥っていても、いつもの認知症の症状だと思い水分を補給しないでいると症状がさらに進んでしまいます。
話しかけても反応がなくなり、意識がもうろうとしたような状態になれば危険です。ひどいときには意識を失ったり、体のけいれんが起こったりします。
Aさんの実例でもわかるように、いつも一緒にいる夫でさえ妻の脱水に気づきませんでした。
脱水になりやすい薬と薬の作用・副作用に注意を
心不全などの病気により利尿剤を服用する高齢者は多く存在します。利尿剤は体内の余分な水分を尿として排せつさせるため、汗をかきやすい環境で利尿剤を服用していると脱水症状を起こしやすいのです。
また、糖尿病の薬でSGLT2阻害薬にも脱水を起こしやすい副作用があります。脱水になりやすい薬を飲んでいるときはちょっとした体調変化にも注意を払いましょう。
Bさんの妻はBさんの症状を最近変更された薬の作用だと思っていました。このように症状だけで脱水症を見分けるのはとても難しいものです。
脱水症のサインを見逃さないで
脱水症に陥っても、高齢者本人が気づかないことがあるため、周囲の人が気づいてあげることが大切です。こんな症状があったら脱水症かもしれません。チェックしてみましょう!
- 大人(自分で発見)
☑ 夏バテ気味と感じる
☑ 頻回に喉が渇く
☑ 尿の色がいつもより濃い
☑ 口の中、口の周りが乾く
☑ 二日酔いのような症状がある
☑ 日中、トイレに6時間以上もいかない
☑ 口の中がねばねばする
☑ 足がつる
- 高齢者(周囲の気づきによる発見)
☑ トイレに行く回数が減っている
☑ 便秘になる
☑ 食べる量が減った
☑ なんとなく元気がない
☑ 昼間寝てばかりいる
☑ 暑いのに、皮膚がサラサラとしている
☑ 微熱がある
☑ 認知機能の低下がみられる
☑ 口臭がある
☑ 歯周病による歯茎の腫れや痛みを訴える
☑ いつも食べている味なのに、塩辛い、味がないなど味覚異常がある
☑ わきの下が乾いている
※谷口英喜著: 「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本改訂版,日本医療企画, (2018),23-24より引用
脱水症の予防法
水分補給をしよう
脱水症の予防には適切な水分補給が重要です。推奨されている飲水量は、高齢者を含む学童から成人では1日に500~1,000mlとなっています。毎日の水分補給は半分を食事中に含まれる水分から、残り半分を水分摂取としての飲料からとるのが理想的です。 高齢者の場合はのどの渇きが感じにくいため、回数を分けて定期的に水分をとるのがよいでしょう。のどが渇く前に早めの飲水を心がけましょう。
食事量が少ない場合は水分が不足しやすいため特に注意してください。食事にみそ汁やスープなどの汁物をつけると水分をとりやすくなります。通常飲む水分は、水やお茶など飲みやすいものを飲みやすい温度で飲用してかまいません。ただし、脱水症のサインがみられるときは、経口補水液やスポーツドリンクの飲用をおすすめします。
経口補水液は水に電解質とブドウ糖をバランス良く配合した飲み物で、ドラッグストアなどで購入できます。普通の水に比べて体への吸収速度が速いのが特徴です。スポーツドリンクも経口補水液と同じように電解質や糖分を含んでいますが、経口補水液に比べて一般的に糖分の量が多く、電解質の量は少なめになっています。
脱水になったとき経口補水液を飲むと、水分が素早く体内に浸透し脱水を改善してくれます。家庭に常備しておけば急な脱水症状に素早く対処できるでしょう。しかし、経口補水液は塩分などが多いため、通常の飲料には適しません。あくまで、脱水と脱水が疑われるときの飲料と心得てください。嚥下機能低下による誤嚥リスクが高い場合には経口補水液をゼリー状にしたものが市販されており、ゼリータイプを注意深く摂取することが望まれます。
快適な空間で過ごそう
梅雨明け前後は暑さのピークになり、熱中症の発生リスクが最も高くなるといわれています。部屋の温度・湿度を測り、快適な空間で過ごしましょう。夏場でも室温は28℃以下、湿度は50~60%を保つよう工夫が必要です。窓を開けて換気をおこなうか、扇風機やエアコンを使用して温度と湿度を調節しましょう。
外出する場合は暑い日や日中を避け、できれば同伴者と一緒に外出することをおすすめします。
高齢者は認知機能の低下があったり持病を持っていたりするため、体調の変化があったときに脱水が原因だと気づきにくい傾向があります。
夏場は暑くなりますので、室内温度と湿度を適切に調整し、水分は回数を分けて定期的にとりましょう。のどが渇く前に早めの飲水を心がけることが大切です。
脱水症のサイン「チェックリスト」を活用して、高齢者本人はもとより家族、周囲の人が早めに脱水に気づくことで病状の進行を予防できます。(ライティング:看護士)
参考文献
- 谷口英喜:「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本, 改訂版, 日本医療企画, (2018)
- 日本救急医学会: 熱中症診療ガイドライン(2015)
- 奥山 真由美, 西田 真寿美: 高齢者の脱水症予防のケアに対する文献的考察, 山陽論叢 , 19, 83-91 (2012)
- 佐藤吉彦:SGLT2阻害薬による糖尿病新規薬物療法,信州医誌,63(1),9-18(2015)