歩行速度の低下が認知症リスクと関連
2022年06月13日
歩く速さが遅くなったと感じたら、認知症のリスクについて医師に相談したほうが良いかもしれない。歩行速度が年々低下していて、かつ認知機能の低下も進行している場合、それらが単独で進んでいる場合よりも、認知症のリスクがより高いことを示すデータが、「JAMA Network Open」に5月31日掲載された。論文の筆頭著者であるモナッシュ大学(オーストラリア)のTaya Collyer氏は、「われわれの研究結果は、認知症のリスク評価における歩行速度の重要性を浮き彫りにしている」とCNNの取材に対して語っている。
Collyer氏らは、2010~2017年に米国とオーストラリアの高齢者対象に実施された、低用量アスピリンの有用性を評価する無作為化比較試験のデータを用いて、認知機能や歩行速度が低下することと認知症リスクとの関連を検討した。1万9,114人の研究参加者のうち、データ欠落のない1万6,855人(88.2%)を解析対象とした。平均年齢は75.0±4.4歳、女性が56.0%であり、教育歴12年以上の人が44.8%だった。
認知機能や歩行速度を、研究参加時点と研究終了時、および、研究期間中に3回測定。認知機能については、その低下速度の三分位に基づき研究参加者全体を3群に分け、第3三分位群(認知機能低下幅の大きい上位3分の1)を「認知機能低下」と定義した。歩行速度については、1年間に秒速5cm以上低下した場合を「歩行速度低下」と定義した。認知症の発症は、米国精神医学会の診断基準(DSM-4)に基づき判定した。
認知機能と歩行速度がともに低下しなかった群を基準として、認知症発症リスクに影響をおよぼし得る因子〔年齢、性別、教育歴、ベースライン時の認知機能・歩行速度、および国(米国かオーストラリアか)〕を調整後、その他の群の認知症リスクを解析した。なお、本研究では認知機能をいくつかの異なる指標で評価しており、ここでは修正ミニメンタルステート検査(3MS)で評価した結果を示す。
まず、認知機能のみが低下した群はハザード比(HR)7.1(95%信頼区間4.9~10.5)であり、歩行速度のみが低下した群はHR4.0(同2.5~6.6)だった。それに対して、認知機能と歩行速度がともに低下した群は、HR22.2(15.0~32.9)と、双方とも低下しなかった群の22倍以上ハイリスクだった。
この結果から著者らは、「認知機能と歩行速度の低下の重複が、認知症リスクの上昇と強く関連していることが明らかになり、認知症のスクリーニングの評価項目に歩行速度の測定を加え、早期介入の糸口とすることの重要性が示唆される」と結論付けている。
これまでの研究で、ランニング、速い速度でのウォーキング、水泳、サイクリング、ダンスなどの有酸素運動が、認知機能の低下抑制または改善に役立つことが示されている。なお、認知機能テストを受けた結果、認知症発症の前段階に当たる「軽度認知障害(MCI)」と判定されることがある。このMCIと判定された人が全て認知症へと進行するわけではない。米国立老化研究所によると、MCIと判定された65歳以上の人の10~20%のみが、1年以内に認知症を発症するとされている。(HealthDay News 2022年6月1日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2792815