朝田隆先生へのインタビュー
2020年12月15日
筑波大学の名誉教授である朝田先生にお話を伺いました。
最近よく耳にするようになった「MCI」のこと、先生が行っている「早期対応のデイケア」のことを教えていただきました。また、開発に携わった「MCIスクリーニング検査」についてもコメントをいただきました。
目次
なぜ認知症の前段階の MCI(軽度認知障害)で気づくことが重要なのでしょうか?
認知症というと不治の病というイメージが強く、恐怖心を持っている方も多くいらっしゃいます。そのため周囲が認知症を疑っても本人が受診を拒むことで悩みを抱えているご家族様も少なくありません。
認知症という言葉は知っていても正しく理解している人は少なく、「健常」か「重い症状」かの二分法でとらえていて、実はその間に非常に長い期間があることを知らない方がほとんどです。MCIは認知症の前段階にあたり、認知症ではありません。このMCIの段階で気づくことができれば認知症への移行を防ぐこともできるといわれています。ご自身の今の状態を知り、できるだけ早く適切なケアを行うことで認知症を遠ざけ、充実した老後を過ごすことが可能なのです。
MCIだった方が予防をしたことで認知機能が回復したというケースはありますか?
私が理事を務める「メモリークリニックお茶の水」では2013年からMCIや軽度の認知症患者の方を対象に「認知力アップデイケア」を実施しています。デイケアでは運動や脳トレ、音楽、絵画、料理などのプログラムを1日6時間程度毎週行っています。
デイケアに参加している方々の認知機能を認知機能テストにて確認したところ、何もしない方は認知機能テストの点数が低下するのに対し、参加者は平均で2ポイント上昇しました。
早期対応のデイケアは、どこのクリニックでも受けられますか?
わたくしどものクリニックでは、MCIの段階での早期対応のデイケアを受けられますが、このような施設はまだ少ないのが現状です。
ですが、予防はご自身でも取り組むことが可能なのです。予防法としてよく取り上げられるのが有酸素運動です。ただ単純にひとつの運動を行うのではなく、複数の作業やトレーニングを組み合わせたデュアルタスク(2種類の作業を同時に行うこと)の方が、認知症予防の効果は高くなります。
また他人とコミュニケーションをとることが大切です。社会生活の場で他人と交流しておしゃべりをすることが脳に刺激を与え、神経細胞ネットワークを活性化できると考えられています。
ご家族と会話をする、同じ取り組みや趣味を持つ仲間と交流する、夫婦で共同作業を行うなどの機会を作って、積極的にコミュニケーションをとることは大切です。
クリニック以外にも認知症予防ができる施設はありますか?
最近では地域の認知症予防の講座や体操教室などを行う自治体も多くあります。こういった取り組みは市区町村自治体が実施している「介護予防・日常生活支援総合事業」の「一般介護予防事業」に位置付けられており、その自治体に住んでいる65歳以上の方であればだれでも参加することができます。介護保険の要介護認定を受けている必要はないので、「以前に要介護認定を申請して非該当だった」という方にもおすすめできます。
MCIスクリーニング検査について教えてください。
MCIスクリーニング検査は、アルツハイマー型認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)のリスクを調べる血液検査です。私が所属していた筑波大学病院精神科チームと同大学発のベンチャー企業MCBIとの共同開発で生まれました。アルツハイマー型認知症はアミロイドβ(Aβ)という老廃物が脳内に蓄積し、神経細胞を破壊することで発症するといわれています。
MCIスクリーニング検査ではAβを排除する機能や生活習慣病に関わる3つのタンパク質(ApoA1、TTR、C3)の血中の濃度を測定し、MCIリスクの低い順にA、B、C、Dの4段階に分けて結果を提示しています。
どんな方にMCIスクリーニング検査を受けていただきたいと感じていますか?
認知機能の低下の最大のリスク因子は加齢ですが、近年、生活習慣と認知症の関係が明らかになり、運動不足、喫煙、不健康な食生活、過度の飲酒がそのリスクとして報告されています。また高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、肥満、うつ病といった疾患、さらには社会的な孤立、知的活動の不足も認知症発症のリスクとして明らかになっています。ですので、これらリスクに1つでも心当たりのある方は是非一度「MCIスクリーニング検査」を受診していただきたいです。ご自身でできることから、認知症のリスクを取り除くことを意識し、認知機能の低下や認知症発症を遅らせる予防・介入への取り組みを積極的に行うことが大切です。
40年近くにわたり1万人を超える認知症およびその予備軍である軽度認知障害(MCI)の治療に従事している朝田先生も予防の大切さを様々なメディアを通じて呼びかけています。コラム中でも様々な予防方法を紹介していますので、始められそうなものからスタートしてみてはいかがでしょうか。