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認知症予防コラム

筋トレで脳を覚醒(65歳以上)

2020年07月29日

長距離を徘徊できるのはなぜ?

認知症やその予備軍であるMCIの人たちは、筋肉の痛みや疲れを感じにくいという身体的特徴があります。例えば、驚くような距離を一晩で徘徊したり、スクワットをとめどなく続けられたり、といったことです。
なぜ、こんなことができてしまうのでしょうか。
それは、筋肉と感覚神経とのつながりが悪く、筋肉の情報が脳に伝わりにくくなっているからだと考えられています。通常、長い距離を歩いたり、何度もスクワットをすれば、足が疲れてしまって歩けない、筋肉が痛くなって続けられない、といった具合に疲労や痛みを感じます。しかし、筋肉からの情報が脳に伝わらないと、疲れや痛みを脳が感知できず、歩き続けたり、スクワットをし続けることができてしまうのです。

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筋肉の情報が脳に伝わるように回復できるのか

伝わりにくくなってしまった筋肉からの情報は、再び脳へ伝わるようにならないのでしょうか。答えは「はい、回復する可能性がある」です。低下してしまった感覚神経の働きを改善する方法として「強めの筋トレ」が高い効果をあげています。

意識した筋肉への強い刺激が脳を覚醒させる

筋肉からの刺激が通る脳幹という部分には、生命活動の中枢を担う「脳幹網様体」という神経繊維の集まりがあります。ここに筋肉からの強い刺激が伝わると脳が覚醒します。その結果、失われていたり、眠っていたりした脳細胞の機能を取り戻すことができるのです。

脳に伝わる筋刺激は強いほど効果が高く、筋肉の太さに比例します。つまり、体の中で最も大きい筋肉である太ももの筋肉を鍛えるのが最も効果的です。筋トレのポイントは「鍛える部分に意識を集中させること」です。トレーニングする筋肉を意識することで、運動神経を通して「この筋肉を動かす」という指令が脳から目的の筋肉に伝わり、その筋肉で生じた「筋トレによる痛み」が強い電気信号となり、感覚神経を通して大脳へ戻ってきます。目的の筋肉を意識していた場合には脳が感じ取る痛みが増し、感覚神経の改善につながるのです。

感覚神経の働きが回復すると、筋肉で生じた痛みや疲れが脳に伝わり、「足が疲れた」「太ももが痛い」と感じられるようになるのです。

感覚神経が回復すると認知機能も向上する

強めの筋トレを続けると、感覚神経のつながりが良くなり、痛みや疲労を感じるようになります。それに合わせて認知機能も向上することが多いと言われています。MCIの方が週1回の筋トレを3ヶ月続けた結果、記憶力スコアが健常者レベルにまで回復した報告もあるということです。

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筋トレを行う頻度と強度

筋トレは、極限近くまで筋肉を使う強度で週1回行うことがおすすめです。残りの6日間で筋繊維が修復され、より強い筋肉に若返ります。自分の体力レベルに合ったトレーニングを実践すれば、早い人はその日のうちに、通常では2~3ヶ月で効果を実感できるでしょう。

体の中で一番大きな太ももの前側の筋肉は、膝を伸ばした時に使われます。スクワットが効率の良いトレーニングですが、椅子に座った方法もあります。

トレーニング方法

スクワット

  1. 両足を肩幅に広げる。足先は真っ直ぐ前もしくはやや外側に向ける。
  2. 背筋をしっかりと伸ばし、椅子に腰かけるイメージでおしりを後ろへ突き出しながら、股関節を意識して上体を下げていく。
    ※膝がつま先よりも前に出ないように気を付けながら、お尻は後ろに下げるイメージで、息を吸いながら行う。
  3. 床面と太ももが平行になる位置まで下げたら、少しの間状態をキープする。
  4. 膝関節を意識しながら上体を上げ、膝を伸ばし切らない状態まで戻す。
  5. この動作を10~30回繰り返し、インターバルを置いて合計3セット行う。

※フォームを誤ると膝や腰に負担がかかり、トレーニング効果が得られないので注意しましょう。

椅子に座ったトレーニング

  1. 椅子に浅く腰かけて背筋を伸ばす。
  2. 両手で椅子の座面側面をつかんだら、右足を床から離して太ももを浮かせる。
  3. 曲げた右足の膝をゆっくり伸ばしながら、つま先を上に上げて、ゆっくり元に戻す。
  4. 太ももを浮かせたまま10回繰り返す。左足も同様に、1セットから。

認知症の症状が進行した方に筋肉を意識した筋トレを実施したところ、認知機能が回復して通常の生活を送れるまでに戻った例があると言われています。認知症を発症してからの効果もありますので、体の中で一番大きな筋肉を意識した筋トレで、神経回路がよみがえる可能性があることを頭の片隅に置いておいてください。

引用:

  • 株式会社MCBI発行 認知症予防マニュアル
    (総合能力研究所所長 本山輝幸先生監修)