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認知症予防コラム

歯周病細菌が認知症の原因だった?歯周病を予防して認知症も予防しよう

2023年03月16日

口の中の病気である歯周病が、脳血管性認知症に関連する脂質異常症やアルツハイマー病などの全身の病気を引き起こすことが知られています。歯周病と脂質異常症の関連や、歯周病細菌の中でも悪の頂点に立つPg菌について説明しています。歯周病を予防する生活習慣も紹介していますので、チェックしてみてください。

歯周病が脂質異常症の原因に?

歯周病の原因細菌のひとつであるPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)(以下、Pg菌)の感染が脂質代謝異常を引き起こす要因になる可能性があることが、2014年に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の工藤値英子助教らの研究グループによって報告されています1)。

研究では、平均年齢60歳の男女各45人において、Pg菌の感染度合いを示す免疫グロブリンGの値が高い者は、脂質代謝異常の指標の一つであるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値が高いことが示されました。

また、国内外の実際の調査でも歯周病患者は歯周病でない人よりもHDLコレステロール(善玉コレステロール)値が有意に低いことが報告されています。

歯周病で低下する噛む力も脂質異常症に関与

重症の歯周病になると歯が抜け落ちてよく噛めなくなります。2021年、大阪大学と国立循環器病研究センターの研究グループによって、よく噛めない男性は、脂質異常症や高血糖、肥満、高血圧などのリスク因子から成るメタボリックシンドロームになりやすいと報告されました2)。
噛む能力が低下すると、緑黄色野菜や果物などの歯ごたえがあるものの摂取量が低下することによりメタボリックシンドローム予防に有効的なミネラルや食物繊維の摂取が減少し、米などの軟らかいものの摂取量が増加することにより炭水化物の摂取が増えるためだと考えられています。

口の中に潜む最悪の細菌Pg菌

口の中には数百種類の細菌が存在します。Socranskyらは歯茎と歯の間の歯周ポケットに潜む歯周病細菌を6グループに分け、ピラミッド状に配置しました。ピラミッドの頂点に位置する細菌グループは慢性歯周炎のレッドコンプレックス(最重要歯周病原細菌)と呼ばれます3)。

Pg菌はレッドコンプレックスに分類される3つの歯周病細菌のうちのひとつで、重度の歯周病患者の歯周ポケットで高頻度に認められます。

出典:2)より Fig. 1. Diagram of the association among subgingival species (adapted from Socransky et al. (174))

歯周病が全身の病気を引き起こすメカニズム

Pg菌などの歯周病細菌に一度感染すると、口の中から完全に取り除くことは簡単ではありません。空気を嫌う歯周病細菌は空気の届きにくい歯周ポケットの中で細菌数を増やして歯周組織に炎症を起こし、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)を溶かします。そのまま放置していると歯を失う原因となります。

組織の炎症は口の中にとどまりません。歯周病細菌由来の有毒物質であるLPS(リポ多糖)による刺激を受けた歯周組織の免疫系細胞が炎症性物質を作り出します。作られた炎症性物質や歯周病細菌そのものが歯茎の血管から侵入して全身に巡り、至るところの組織で炎症を起こすことが知られています。

脂質異常症以外にも糖尿病、心血管疾患、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)など、全身にさまざまな悪影響との関連性が注目されています。

Pg菌が口の中でアルツハイマー病の素をつくっていた?

アルツハイマー型認知症患者の80%以上に認められる脳内の老人斑の「素」であるAβは、脳の中で作られると考えられてきました。しかし、2019年に、AβがPg菌が感染している歯茎でも作られていることが九州大学歯学部の武洲准教授らの研究グループによって解明されました4)。

歯周病を予防する生活習慣で脂質異常症や認知症を予防

歯周病はあらゆる側面から脂質異常症やアルツハイマー型認知症などのリスクとなります。歯周病を予防するにはPg菌などの歯周病細菌が好んで棲息する歯周ポケットを深くしないことが大事です。

歯周病予防に歯科医院へ

歯周ポケットを深くしないためには歯垢や歯石の除去が必要ですが、自宅で行う歯磨きのみではすべて取り除くことはできません。専用の器具類を使用して行う歯科医院での歯のクリーニングを受けることをお勧めします。

すでに歯周病の人は、歯周病細菌が棲みやすい口の環境であるといえます。定期的に歯のクリーニングを受けて衛生的な状態を維持しましょう。毎日の歯磨きも適切に行わないと効果はありません。自分に合った歯ブラシの選び方と歯磨き方法の指導を歯科医院で受け、歯周病予防に効果的なケア方法を身につけましょう。

歯周病のリスク因子を避けた生活を

歯周病のリスクとなる習慣を避けることも忘れずに。
・甘いものや軟らかいものばかりの食事や不規則な食生活は歯垢や歯石の原因となります。栄養バランスを考えた食事を決まった時間にとり、よく噛んで食べましょう
・喫煙は歯茎の血行を低下させ、歯周病細菌が増加しやすくなります。また、喫煙者は非喫煙者に比べて処置後の治りがよくないと言われています。喫煙している場合は禁煙しましょう
・ストレスによって身体の免疫力が低下すると歯周病も悪化します。ストレスは溜めこまずに自分に合った発散方法を見つけましょう

まとめ

全身の健康維持、認知症予防はお口の健康から
病気の予防となると、身体に注目しがちですが、身体のすべての入り口である口の中の衛生状態が保たれていないと歯周病細菌に感染しやすくなり、脂質異常症やアルツハイマー型認知症などの全身の病気になるリスクも高まる可能性が考えられます。

日本では「高齢になると歯を失うので入れ歯で補う」という感覚が根付いていますが、自分の歯をいつまでも保って噛む力を維持することは、全身の健康を守ることにつながります。この機会に自分の口の健康にも目を向けてみませんか。

(参考文献)

  1. Kudo C. et al. Analysis of the relationship between periodontal disease and atherosclerosis within a local clinical system: a cross-sectional observational pilot study. Odontology 103: 314-321 (2015)
  2. Fushida S. et al. Lower Masticatory Performance Is a Risk for the Development of the Metabolic Syndrome: The Suita Study. Front Cardiovasc Med 8: 752667 (2021)
  3. Sigmund S. et al. Dental biofilms: difficult therapeutic target. Periodontology 28: 12-55 (2000)
  4. Nie R. et al. Porphyromonas gingivalis Infection Induces Amyloid-β Accumulation in Monocytes/Macrophages. J Alzheimers Dis 72: 479-494 (2019)