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認知症予防コラム

親を認知症にさせないためにできること 《食事に関するアドバイス③糖化による老化促進を阻止》

2021年10月26日

九州大学が継続的に実施している久山町研究では、糖尿病の人はそうでない人に比べて認知症になるリスクが高いことがわかっています。その報告の中では、近年の糖尿病患者の増加が認知症の増加に影響しているとあります。
それならば私の親は糖尿病でないから大丈夫と、安心できるものでもないようです。今回は食事内容と認知症発症との関連性についてご紹介します。


認知症は歳を重ねることで発症する可能性が高くなる病気ですが、予防ができる病気です。認知症について、子が病気を理解して、予防の手助けをしてくれることほど心強いものはありません。子世代にとっても、親が認知症になってから大変な思いをするよりも、一緒に予防に取り組む方が得策です。

認知症の予防策は食事と生活の中にあるといいます。離れて暮らしている親にも、いつまでも元気でいてもらえるよう、アドバイスできることがあります。

《食事に関するアドバイス》

①食事をとらない時間をしっかり確保する(脳の炎症抑制)
②小腹がすいたら、甘いものでなくタンパク質を(高血糖による血管損傷を防ぐ)
③精製された白い主食は卒業する(糖化による老化促進を阻止)

精製された白い主食は卒業する(糖化による老化促進を阻止)

白い主食は吸収が速い

白米やパン、うどんなどの「白い」あるいは「白っぽい」色をしている炭水化物があります。これらは精製により食物繊維の部分を削ぎ落した穀物から作られたもので、食物繊維が少ない分、胃腸での消化吸収が早く、高血糖の状態を引き起こしやすい炭水化物と言えます。

からだの中で起こる「糖化」とは

高血糖の状態が続くと、ブドウ糖が血液中にあふれ、全身を巡ると前章で触れました。ブドウ糖はタンパク質と結びつく性質がありますので、全身を巡るうちにからだの組織であるタンパク質にくっつきます。これが体温によって温められると「糖化」という反応が起こります。
この反応でつくられるのが最終糖化産物(Advanced Glycation End Products: AGEs)と呼ばれる物質で、老化を促進したり、からだに悪い影響を及ぼしたりします。

「糖化」を説明する際には、よくホットケーキに例えられます。白くて甘いホットケーキミックス(糖質)が牛乳と卵(タンパク質)に混ざり合い、加熱されてこんがりキツネ色に焼き上がります。この褐色に焦げた状態が「糖化」です。
美味しい焦げ目ですが、体内で”焦げ”が起こると、良いことはありません。焦げ(=「糖化」)が起こった部位では、さまざまな老化が起こります。例えば皮膚ではタンパク質の褐色化により肌がくすみ、タンパク質の硬化でハリや弾力が低下、角質はキメが粗くなり、見た目に分かりやすく老化が促進します。シミやしわ、たるみも同様にAGEsが影響していると言われています。頭皮においては髪のツヤがなくなったり、薄毛の原因の一つと考えられています。その他、骨粗しょう症、糖尿病合併症、動脈硬化、心筋梗塞、がん、歯周病、アルツハイマー病などにつながると考えられています。
糖化によってつくられるAGEsは、健康なタンパク質を水あめのようにベタベタとした状態に変えてしまいます。組織にべったりと入り込んだAGEsは排出されにくく、徐々に組織を老化させていきます。また、一度変質したタンパク質が元の状態に戻ることはなかなか難しいと言われています。

あたまの中では

脳はタンパク質と脂質でできているため、AGEsができやすい臓器です。脳は、水分を除くと4割がタンパク質、6割が脂質のため、大量のブドウ糖が入ってくるとAGEsによる劣化が進みやすくなります。実際、アルツハイマー型認知症の方の前頭葉には、健康な高齢者よりも3倍多くのAGEsが存在していることが確認されています。また、アルツハイマー型認知症の発症の原因となるアミロイドβの凝集や、アミロイドβを脳から排出するクリアランス機能を低下させることにも、AGEsが関係していると考えられています。

糖化による老化を防ぐには

通常の加齢に伴う老化に加えて、急激に老化をさせているのが糖化です。
この糖化を防ぐには、高血糖状態をつくらないことが大切です。前の回で紹介した食べ方の工夫をすることで、食後の血糖値を抑える効果があります。食事の際には是非心がけるようにしてください。
血糖値の上がりやすさを示す値にGI値(グリセミック・インデックス)がありますが、最近注目されているのはGL値(グリセミック・ロード)で、より現実的な値を調べることができます。というのが、調査対象の食品に対し炭水化物50gで値を算出しているのがGI値、これに対して一般的な一食当たりの炭水化物の量で糖質量を算出しているのがGL値です。とういうことかというと、例えばGI値の高い野菜があるとします。ところが野菜は炭水化物量が少ないため、炭水化物50g分の量を摂取しようとするととても食べきれない量になります。よって、「非現実的な量を食べた場合にGI値が高い」となりますが、実際に食べる量で血糖値の上がりやすさを算出した場合、「GL値が低い」ことになります。GL値は、インターネット上でデータが公開されていますので参考にしてください。

食事は毎日のことなので、日々注意を払うことで、からだが良い状態に変わってくるでしょう。それらが習慣になるまでは難しいと感じることもあるかもしれませんが、血管の損傷や老化の促進につながっていると分かれば、励みになるものです。親世代を認知症にさせないために、また、自分の老化を促進させないためにも、一緒に取り組んでみるという提案も良いかもしれません。たまに状況を報告しあうとお互いのモチベーションが維持できます。

認知症予防の取り組みにはいろいろな方法があります。無理なく取り組めそうなものを選んで、習慣にできると良いですね。

MCIスクリーニング検査は、血液で今のあたまの状態が数値化されます。予防の取り組みの効果を確認してみてはいかがでしょうか。

参考文献:

  • 笠井高士「認知症と糖尿病」京府医大誌 126(10),697~705,2017.
  • Masayuki Yagi, Yoshikazu Yonei. Glycative stress and anti-aging: 12. Glycative stress and dementia. Glycative Stress Research 2019; 6 (2): 087- 091
  • 藤田絋一郎「親をボケさせないために、今できる方法」