認知症予防習慣 ―交流習慣―
2021年02月08日
人間は社会的動物といわれています。人と交流することで経験が豊かになりますし、脳も大いに刺激を受けます。人と交わることで受ける刺激は脳を活性化し、脳をどんどん変化させていきますが、 逆に誰とも話さないでいると退化してしまいます。
誰かと会おうと決めた時点で、その日に向けた準備が始まります。元気にしているかな、どんな話をしようかな、何か持って行こうか、着るものはどうしようか、その場所への行き方を確認しておこう、家を出る時間は…、いろいろなことを考えると気分が高揚し、その日がどんどん楽しみになったという経験はありませんか。会う前から、既に脳への刺激が始まっていることがわかります。
人との会話が脳を刺激
他人と交流するときには、会話が生まれます。相手の話を聴き、内容を理解し、相手の反応をみながら、言葉を選択して、自分の気持ちやできごとを伝えますが、それぞれの過程において使われている脳の部位は異なります。
相手の話を理解するためには「ウェルニッケ野」、伝えたいことを言葉にするには「ブローカ野」という領域が働きます。他にも、声を聴き取る「聴覚野」、口を動かして話す「運動野」、話を組み立てる「前頭前野」記憶に関わる「海馬」も働きます。また、会話をしている時には、相手の動作や仕草を解析して、その意図を探ろうとする作用も無意識に働いています。
会話が次々と展開されると、これらの部分が刺激され、どんどん情報を処理していることになります。人からかえされる反応によって自分の反応も変わるので、相互のやり取りが脳には大きな刺激になります。
長時間人と議論したあとや、多くの初対面の人と会話をしたあとは、どっと疲れたという経験があると思います。これは脳のいろいろな部分がフル稼働し、情報を処理していたからです。
いろいろなコミュニティーで会話を
家族や親しい友人、職場や仕事上のつながり、同じ趣味を持つ人との集い、ボランティア活動など、多様なつながりを持つことで脳への刺激が高まります。それは、それぞれの集まりの中で使う言葉や知識が異なるために、他では使わない知識が掘り起こされるからです。
脳の神経細胞は、情報伝達をするために別の神経細胞とつながっています。頻繁に使う言葉や知識へのつながりは強固なため、すぐに情報を引き出せますが、長い間使われない言葉や知識へのつながりは薄れ、やがてなくなってしまいます。
しかしいろいろな人との会話の中で、知ってはいるけれど長い間使っていなかった言葉や知識を思い出すことによって、再び神経細胞のつながりが作られます。新しいことを学ぶと、新しいつながりが増えるのです。これには年齢は関係ありません。いくつになっても脳では神経細胞のつながりが増え、脳を使うほどに働きが良くなるのです。
人と話すとストレス軽減になる
人と会話をすると楽しいと感じたり、悲しい気持ちが半減したり、喜びが倍増したり、もって行き場のないイライラが癒されたりします。気持ちを人に伝え、人からの作用を受けると気持ちが変化します。
会話には、ストレスを解消する効果があります。「スッキリした!」「楽しかった!」と感じることがあるでしょう。人と話すと楽しい気持ちになり、自然と笑顔がこぼれるのも会話の効果によるものです。
いろいろなかたちで交流習慣
コロナ禍で、認知機能の低下を訴える高齢の方が増えています。身体的活動量の減少だけでなく、交流や人との会話の減少が想像以上に大きな影響を与えているようです。
対面で会えずとも、テレビ電話であれば相手の表情を見ながら会話ができるので、実際に会っている感覚にだいぶ近くなります。メールやSNSでも、相手のことを思いやるメッセージのやり取りで心の距離が縮まり、脳への刺激にもなります。人との接し方が変わってきた今、以前とは違うかたちの交流が定着してきています。いろいろなかたちで交流習慣を楽しみましょう。
参考文献:
- Saito, T., et al. Influence of social relationship domains and their combinations on incident dementia: a prospective cohort study. J Epidemiol Community Health, 72(1), 7-12. 2017
- 山口晴保「アルツハイマー病の正しい理解と脳活性化リハビリテーション」