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認知症予防コラム

マイクロプラスチックと高脂肪食の摂取により糖尿病や脂質異常症が悪化?

2024年10月18日

マイクロプラスチックをご存じでしょうか?私たちは知らず知らずのうちに、飲料水や魚などを通じてマイクロプラスチックを口にしています。このマイクロプラスチックと高脂肪食の組み合わせが糖尿病や脂質異常症を悪化させる可能性が報告されています。糖尿病や脂質異常症などの代謝異常は認知症のリスクを高める要因の一つとなります。

本記事では、マイクロプラスチックと高脂肪食が引き起こす全身への影響と、代謝異常と認知症リスクの関連性について詳しく解説します。

マイクロプラスチックと高脂肪食は危険な組み合わせ

マイクロプラスチックとは1ナノメートルから5ミリメートル未満のサイズのプラスチックを指します1)。マイクロプラスチックと聞くとペットボトルやビニール袋などの海洋プラスチックごみが粉砕された細片をイメージする人も多いかもしれません。

1nm(ナノメートル):1mm(ミリメートル)の100万分の1

マイクロプラスチックは洗顔料や化粧品にスクラブ剤としても含まれています。微細なビーズ状のプラスチック原料が下水処理を通り抜けて海に流れ出し、それを飲み込んだプランクトンや魚を私たちが口にするとマイクロプラスチックの経口摂取となります。

脂肪の多い食事とマイクロプラスチックの組み合わせが血糖値、血中脂質量、脂肪肝を悪化させる可能性を報告した研究があります2)

この研究は、通常の遺伝子を持つ正常マウスに普通食または高脂肪食を与えて飼育する際にポリスチレンマイクロプラスチックを混ぜた水または通常の水を4週間与えた結果を比較したものです。

その結果、普通食の摂取に対して高脂肪食の摂取により悪化した血糖値、血中脂質量、脂肪肝などがポリスチレンマイクロプラスチックの摂取によりさらに悪化しました。

高脂肪食が引き起こす腸内環境の乱れ

高脂肪食が引き起こす腸内環境の乱れについて、その原因として考えられるリーキーガット症候群の詳細と腸内細菌叢バランスの変化について説明します。

高脂肪食で引き起こされるリーキーガット症候群

脂肪の多い食事では腸内細菌叢のバランスが乱れてリーキーガット症候群を引き起こす場合があります。リーキーガット症候群とは、高脂肪食による胆汁酸の増加、ストレス、薬物などの化学物質の影響により、腸のバリア機能が低下し、本来体内に侵入しない大きな分子や毒素が腸壁を通過してしまう状態です3)

前述のマイクロプラスチックと高脂肪食の組み合わせが代謝障害を悪化させる研究では、高脂肪食によってリーキーガット症候群が起こり、腸内に留まるはずのマイクロプラスチックが体内へと侵入し、全身の炎症や代機能謝障害の悪化を引き起こしたと考えられています。

また、腸内環境の乱れそのものが腸脳相関(腸脳軸)を通じて、腸から脳に炎症性物質が運ばれ、脳の働きへ影響を与える可能性も懸念されます。

高脂肪食で腸内環境の乱れが起こる原因

高脂肪食で腸内環境の乱れが起こるメカニズムとして考えられるのは、以下の説です。

高脂肪食により、腸内の細菌叢をおもに構成している腸内細菌のバクテロイデス門とフィルミクテス門のバランスが変化し、バクテロイデス門が減少し、フィルミクテス門が増加することが示唆されています4)

また、乳由来の飽和脂肪酸(バター、チーズ、ラードなど)の摂取により、胆汁酸の組成が変化し、腸内で硫酸塩還元菌であるBilophila wadsworthiaが増加し、腸内細菌叢バランスの異常が起こる可能性があります5)

代謝異常と認知症リスクの関連性

代謝異常と認知症には密接な関係があることが、多くの研究で示されています。特に、糖尿病、脂質異常症などの代謝異常は、認知症のリスクを高める要因として注目されています。国内外における複数の研究報告がありますが、おもな研究報告は次のとおりです。

糖尿病と認知症リスク

久山町研究では、糖尿病があると、アルツハイマー型認知症で2.1倍、血管性認知症で1.8倍、認知症のリスクが高まることが示されています6)

脂質異常症と認知症リスク

中年期における血清コレステロールの高値は、将来のアルツハイマー病のリスクを高める可能性が報告されています7)。また、APOE ε4を持つ人は、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)値が高くなりやすいともいわれ、注意が必要といえるかもしれません

肥満と認知症リスク

肥満が認知症のリスクを高めることも報告されていますが、肥満(BMI25以上)に加えて、加齢に伴う筋肉量や筋力の低下がみられるサルコペニアがあると軽度認知機能障害(MCI)のリスクが約2倍、認知症のリスクが約6倍になることが示されています8)

高脂肪食などの偏った食事を見直し、認知症予防を

WHO(世界保健機構)によると、マイクロプラスチックは海水、淡水、食品、空気、飲料水(ペットボトルの水や水道水)などに広く含まれており、私たちは日々の生活の中でマイクロプラスチックを経口摂取していると考えられます。

また、マイクロプラスチックと高脂肪食の組み合わせで糖尿病や脂質異常症などの代謝障害が悪化させる可能性があります。世界的な環境問題としてマイクロプラスチックを減らす取り組みも重要ですが、まずは一人一人の取り組みとして高脂肪などの栄養バランスの偏った食生活を見直すことが認知症予防と健康維持につながるでしょう。

1)GESAMP SOURCES, FATE AND EFFECTS OF  MICROPLASTICS IN THE  MARINE ENVIRONMENT:  A GLOBAL ASSESSMENT

http://www.gesamp.org/site/assets/files/1272/reports-and-studies-no-90-en.pdf p14

2)Takuro Okamura et al. Oral Exposure to Polystyrene Microplastics of Mice on a Normal or High-Fat Diet and Intestinal and Metabolic Outcomes Environmental Health Perspectives 2023 131 27006

3)島根大学医学部付属病院 【研究紹介】腸のバリア機能低下(リーキーガットシンドローム)の研究について

https://www.med.shimane-u.ac.jp/h_docs/2023072000035/

4)Marie A Hildebrandt et al High-fat diet determines the composition of the murine gut microbiome independently of obesity Gastroenterology 2009 137 1716-1724

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19706296/

5)Suzanne Devkota et al Dietary-fat-induced taurocholic acid promotes pathobiont expansion and colitis in Il10-/- mice Nature 2012 487 104-108

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22722865/

6)T Ohara et al Glucose tolerance status and risk of dementia in the community: the Hisayama study Neurology 2011 77 1126-1134.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21931106/

7)M Kivipelto et al Midlife vascular risk factors and Alzheimer’s disease in later life: longitudinal, population based study BMJ 2001 322 1447-1451

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11408299/

8)Yuki Someya et al Sarcopenic obesity is associated with cognitive impairment in community-dwelling older adults: The Bunkyo Health Study Clin Nutr 2022 41 1046-1051

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35390728/